« 2006年11月 | トップページ | 2007年1月 »

2006年12月28日 (木)

波の塔

Naminotou2 この小説は、昭和34年から翌年にかけて「女性自身」に連載された松本清張初の長編恋愛小説です。今回TVドラマ化されたものを見て、改めてこの小説や清張について考えてみました。

松本清張といえばミステリー作家という印象が強いと思いますが、彼の推理小説には、名探偵、複雑な謎解き、奇抜なトリックはありません。そこが清張以前の探偵小説と違う点です。
人間が感じる恐怖にはもちろん物理的なものもありますが、彼が描きたかったのは、特殊な環境ではなく、日常の中に潜む恐怖です。複雑怪奇な殺人事件が起こり、名探偵がパッと解決する、という展開も痛快ではありますが、それはどこか私たちの日常の生活からはかけ離れた世界です。小説を読み終わった後には果てしなく平凡な日々が続くわけです。そして現実の犯罪はその平凡な日々の中で起こっている。清張はその犯罪の動機に着目したのです。

彼自身「物理的なトリックを心理的作業に置き換える」という言葉で表現していますが、彼の小説の主体となっているのは、動機を描くこと、つまり人間描写、それは心理描写であったり生活描写であったりするわけです。
もちろん推理小説である限り、最後にはすべての謎が解き明かされるという展開にならなければいけないのでしょうけれど、清張の場合には謎が謎めいたまま終わるという展開であっても一向に構わない、むしろその方が読者の深層心理に深く刻み込まれるのではないかとさえ思うのです。余韻を楽しむといったような・・・そういう意味では、清張の作品は推理小説というよりも文学作品として捉えたほうがよいかもしれません。

波の塔が書かれた時代の女性は今とは違い、結婚すれば家庭の中に入り、外の世界との接触があまりない閉鎖的な環境に置かれていました。小野木検事と結城頼子の関係は許されない関係であり、小説の中の言葉を借りれば「どこへも行けない道」なんですね。もちろん今でも倫理的に許されないことではありますが、当時の主婦たちがこの小説に惹かれたことは容易に想像できます。

清張の描く女性には結城頼子のような物理的には満たされた生活をしているのに、心の中が空虚な女性が多いです。「迷走地図」では大臣夫人の寺西文子、「事故」では重役夫人の山西勝子、「砂漠の塩」では優しい夫を持つ妻の野木泰子、「連環」では社長夫人の下島滋子などなど・・・
人間は自制心とか倫理観といったもので欲望とバランスをとっているものですが、日常のふとした時にそのバランスが壊れてしまいそうになることがあります。その心の隙間に入り込んでくる危険な瞬間を清張は捉えて離さない。本当に日常の恐怖を描くのがうまい人だなあと思います。波の塔は恋愛小説ですから、恐怖と言うよりは心の葛藤として描かれていますが。

波の塔の中で好きなシーンは、頼子の夫結城庸雄(ドラマでは朝倉庸夫になってました)が妻の行動を不審に思いお手伝いさんに問い詰めるところ。庸雄はお手伝いさんから「お召し替えの着物が泥まみれになっていた」と聞き、内心動揺してしまう。情報ブローカーとして闇の世界で恐れられている男としての体面と、妻の心が自分から離れてしまっていることを悟り、落ち着きを無くしてしまっている一人の男としての気持ちを同時に演じなければならないシーンで、演者としては難しいところです。
今回のドラマではお手伝いさんの設定が変わってしまっていたので、この緊迫したシーンが見られなくて残念でした。

以前、結城庸雄役を西岡徳馬さんが演じたドラマ(フジTV1991年放送)を見ましたが、このシーンは最高によかったです。私の中の結城庸雄は西岡徳馬さん以外考えられない!お手伝いさんに話しかける時の表情にはやさしさの中に凄みがあって、不気味な怖さを感じました。津川さんはちょっと年齢が高すぎると思うんですよね。いやらしい老人というだけで凄みが無かったもの。津川さんは「けものみち」のおじいさんの方が適役だと思いますけど・・・

Naminotou1 もうひとつ好きなシーンは、家宅捜査で小野木検事が頼子の家を訪れるところ。
「東京地方検察庁検事 小野木喬夫」と書かれた名刺を頼子が手に取るところは衝撃的ですね。そして小野木検事が令状を出すシーンも。
Naminotou4

もし今回のドラマを見て面白くなかったと感じたならば、時代設定が現代に変更されていたため、原作の雰囲気を変えざるを得なかったこと、登場人物の設定に変更があったこと、そして何といっても人物の描き方に深みが感じられなかったことが原因でしょう。孝太郎君は確かに演技が未熟な点があったとは思いますが、原作の小野木検事は検事になりたての新人検事なので、そういう点では若者らしいひたむきさが感じられて、好感が持てました。

この小説は本来、全体に絶望感と緊迫感が漂っているものですが、今回のドラマはどこか軽い感じでした。原作を読んでいらっしゃらない方には「とにかく原作を読んで下さい!!!」と何回も言いたいです。また、1991年にフジTVで放映されたドラマは、脚本が私の大好きな大野靖子さんで、時代設定など原作通りに描かれていてとてもよかったです。
Naminotou3

孝太郎君、ふとした瞬間の表情がお父様に似ていて思わずニヤリとしてしまいました☆.。.:*・゜`

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年12月25日 (月)

本当に難しい

官邸の広報戦略見直し方針

政府は24日、首相官邸の広報戦略を見直す方針を固めた。年明けから安倍晋三首相と記者団との「懇談会」を定期的に開催することなどを検討している。先の首相記者会見で質問が2問で打ち切られるなど、首相のマスコミ対応に「一方通行で消極的」との批判が強まっていることを懸念したためだ。

12月24日15時1分配信 時事通信                          

まずは勝谷さんの20日の日記と佐々木記者の19日のブログを読んでみて下さい。
以下、それぞれの一部分を引用させていただきます。

勝谷誠彦の××な日々。2006年12月20日(水)
大手銀行からの政治献金を受け取らないとの表明の方法も間違いだ。もちろん受け取るなどというのは国民の理解を得られないが問題はその表明の仕方なのだ。そもそも銀行側が献金すると言っていないうちに首相が断るバカバカしさ。党幹部を使って銀行側に自粛させあとで首相指示とわかる戦略をとれば高感度高いのにね。

夜討ち朝寝坊日記:イザ! 佐々木美恵記者 2006年12月19日「せっかく言うなら・・・」

しかし、せっかく表明するなら、「自民党総裁としてこの段階で主要銀行から政治献金を受けることは国民の理解を得ることができないと判断した」という言葉、なんとかならなかったものでしょうか。

 率直さは美徳ではありますが、国民の理解うんぬんより、首相=自民党総裁自身納得いかない、という表現にならなかったものか。同じ表明をするにしても違うニュアンスが出たのではないかと思います。

まったく関係の無いお二人でありながら、期せずしてお二人とも首相の表明方法について苦言を呈しておられます。勝谷氏は戦略のまずさを、佐々木氏は表現のまずさを指摘していらっしゃいますが、どちらも安倍首相及び官邸広報の弱点をよく捉えているなと思いました。世耕さんも日記読むと、連日マスコミ関係者と懇談したりしてがんばっているみたいですけど、冒頭の時事通信のニュースのように首相との懇談会を設ければいいというものでもないような気がします。やはり安倍さんのメッセージの発信力が弱いんじゃないかなぁ。これは安倍さんの性格が影響するものだから難しいですよね。

私は先日の、臨時国会閉幕を受けての首相記者会見はTVではなくラジオで聞いていたのですが、あまりに多岐にわたる内容であったため、緩慢な印象を受けてしまいました。ラジオという、音のみの情報のせいかもしれませんが、テキストになった官邸の会見録を読んでも同じ印象を受けます。

私は復党問題について首相がどのような説明をされるのかと、特に聴覚を研ぎ澄まして聞いていました。気になったのはこの発言。『私は、新しい国づくりを行っていく上において、私と同じ方向を見て、そして新しい国づくりの理念を共有する人たちに、一人でも多く、この国づくりに加わってほしい、そう考えてきました。それは、総裁選挙のときから申し上げてきたとおりであります』

「総裁選挙のときから申し上げてきたとおり」って本当にそんなに何度も発言していましたっけ?確かに過去記事をぐぐると公開討論会で発言しているのは事実のようです。でもそれが公約だと思っていた国民はどれくらいいたのでしょうか?「郵政民営化」という言葉を小泉さんの公約だと思っていた国民は多かったと思いますけど、「復党させるってあの時言いましたよ」と今更言われてもな~んか釈然としないんですよね。

記者の質問時間が無くなってしまうほど長い会見であったにもかかわらず、あまり印象に残らない会見ってとても損をしていると思います。良く言えば丁寧に説明しているということかもしれませんが、そのように受け取ってもらえないのであれば会見も工夫したほうがいいでしょうね。小泉さんは逆に短すぎて「もっと丁寧に説明して!」なんて言われたこともありますから難しいですね。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年12月19日 (火)

続・師走の風景

Yasukuni 靖国神社

巨大な絵馬が奉納されていました。

Ueno1

上野の森

何かとてもいい雰囲気でした。

                                       

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月17日 (日)

師走の風景

Hiroku 『小泉官邸秘録』飯島 勲(日本経済新聞社)をやっと入手しました。まだ全部読んでないのですが、「秘録」というよりも「記録」という感じがします。
そりゃあそうですよね、小泉さんが総理を辞めてからまだ2ヶ月半しか経っていないんですもの。飯島さんだって本当はもっといろいろ語りたいことがあるのだと思いますが、今爆弾発言してしまったら影響が大きすぎますよね。墓場まで持っていかなきゃならないことだってあるでしょうし・・・
小泉総理の5年半の出来事を振り返るといっても、細かい経緯等は忘れてしまっていることも多いので、いろいろな事を思い起こさせてくれました。
「小泉内閣の一番長い日」そして飯島さんにとっても一番長い日だったのは、田中真紀子外務大臣を更迭した2002年1月29日と郵政解散した2005年8月8日の2回だそうです。
郵政解散は去年のことなのでよく覚えていますが、田中外務大臣の更迭については細かい部分は忘れてしまっていたので、改めて当時の記憶がよみがえりました。
私的に気に入ったのは、巻末のデータです。支持率の推移も興味深いですが、「チーム小泉」の方々の紹介が良いです。特に事務秘書官の岡田さんはず~っと気になってた人です。何か愛嬌がある方っていう感じ☆~ 一度だけですが岡田さんの横に立っていたことがあって、思わずお顔をジ~ッと見つめてしまいました。現在は産業研究所上席研究員だそうです。

Okura2 写真はホテル・オークラのロビーに展示されているクリスマスデコレーションで、タイトルは「Retour de L’hiver」~冬の訪れ~といいます。
これは製菓課の新入社員の方達が製作日数1ヵ月をかけてつくったもので、砂糖とチョコレートでできています。素晴らしい!
リスとどんぐりはチョコレート、木の葉は砂糖菓子、松ぼっくりはアーモンドスライスにチョコレートを吹き付けたものだそうです。有名なビュッシュ(ブッシュ)・ド・ノエル(クリスマスの薪)がモチーフだとか。リスがかわいいです♪

Okura1_1 ブッシュ(意味が違うけど)といえば、昨日パパ・ブッシュさんがオークラのお部屋で安倍総理とお会いになったとか。私はそんなこと知らずにオークラにいて、安倍総理が帰ってしまったあとに知りました。だからこんなクリスマスツリーがあったのかな。
別館の正面玄関に星条旗と日章旗がツリーの横に掲げてありました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月15日 (金)

秘密の花園

Himitsu_1 CSで「秘密の花園」(バーネット原作)を放送していたので、思わず見入ってしまいました。この映画(制作総指揮:フランシス・コッポラ)は以前見たことがあるのですが、原作のイメージそのままに、素晴らしい映像美と感動的なストーリーに思わず涙してしまいました。

「秘密の花園」を初めて読んだのは小学校低学年の時。同じくバーネット原作の「小公子」「小公女」と共に本がボロボロになるまで飽きずに読んだことを思い出します。
ヨークシャーの寂しい荒野、お部屋の数が百もある古くて陰気なお屋敷、長くて暗い廊下の向こうから聞こえてくる風の音のような泣き声、そして10年間誰も入ったことのない秘密の花園・・・

こんな未知の世界を想像しただけで小学生の女の子ならワクワク、ドキドキしてしまいますよね。そこへ登場するのが、気難し屋さんのメアリ、いつも眉間にしわを寄せて悲しそうな顔をしているクレーブンおじさん、怒ってばかりいるメドロック夫人、人のいいマルサ、動物の言葉がわかるディッコン、子供なのに王様みたいな病弱なコリン・・・
最後にコリンがお父さんに出会うシーンは本当に感動的です。
読んでいるうちにすっかり自分がメアリになったようで、彼らの世界に心を奪われてしまいました。

ただでさえ想像力が豊かな小さな女の子にとって、この作品は「不思議の国イギリス」というイメージを植えつける大きな役割を果たしました。
いつかイギリスに行きたい、行きたい・・・と願い続けてカナ~リ歳をとってから行きましたが、イメージ通りの国で感動しました。ヨークシャー地方には行きませんでしたが、スコットランドに行った時、今回の映画と同じような光景が眼前に広がっていたことを思い出します。
どんより曇った鉛色の空と古城という、今まで長い間想像の世界にしか存在し得なかった光景を見た時、現実の「秘密の花園」の世界に自分が立っているかのような錯覚を覚えました。                       Himitsu2_1

児童文学ではありますが、この作品は私の永遠の愛読書です。今度原書を読んでみようかな。(子供向きの平易な英文なので、中学卒業程度で十分読めるらすぃ)

                                                                            

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月10日 (日)

うるさい客は良いお客、かも

Kujyou 関根眞一『苦情学』(恒文社)2006年

珍しくビジネス書を読みました。著者は長年大手百貨店のお客様相談室長として様々な苦情・クレームに関わってこられた方です。この本は主に販売に携わる方への参考書としての意味合いが強いと思いますが、客側の視点で読んでも興味深いです。

百貨店での苦情の種類には大きく分けて、「人」、「物(商品)」、「環境」、「事故」、「情報」が絡んだもので整理できるとされています。
そして、なんといっても多いのが人の絡んだ苦情で、件数で見れば六割前後になるそうです。
接客時の態度が不良、失礼、言葉が乱暴、タメ語、販売員同士の私語。接客をしない、無理に勧めるなどの無視と押し付け。商品への知識不足。商品の取り扱いが乱暴等々他にも多くの分類がされています。その他として「お客様の足を踏む、ぶつかる」などという苦情もあるようで、これは論外という感じですね。

次に「物(商品)」が絡んだ苦情も当然多いわけです。色落ち、変色、きず、斜行、サイズ違い、賞味期限、異物混入等々。
私はこの本を読むまで「斜行」(しゃこう)という言葉を知りませんでした。そして斜行が重大な問題であるということも知りました。この本に出てくる斜行とは繊維に関する言葉です。
また、『斜行(しゃこう)とは公営競技における反則行為の一つ。他の競技者(馬)の走路に不当に入ること(出典:Wikipedia)』という意味で使われることもありますので参考まで。

ニットに使われる糸には撚り(より)が加えられているので、洗濯などで水分が吸収されたりすると糸が膨張します。膨張すると撚りがゆるくなるので、撚りの方向とは逆方向に戻ろうとします。そうすると全体がねじれたような感じになります。
本書によると、その斜行度には許容範囲基準があり、通常、百貨店の多くは5%~7%ぐらいの斜行度は基準内と定めているそうです。
(そういえば昔、安売り衣料品店で買ったトレーナーを洗濯したら、全体に妙にねじれてしまったことがあります。あれが斜行だったのか・・・)

斜行の実例として、ブランドもののブラウスを購入したお客様から「一回洗濯したら変に偏ってしまった」という事例が載っています。通常はブランドもののブラウスでそのようなことは絶対にないとされていましたが、お客様宅へ訪問しますと、なんと絶対ないと考えられていた斜行がそこにあったそうです。

百貨店側は「斜行の原因は編み糸の段階から始まり裁断まで関係しますので、このロットはほとんど斜行したことになると思い、取引先へ連絡を入れました」と、このお客様の苦情に大変感謝したわけですが、斜行というのは一つの商品の交換で終わるものではなく、ロットごと回収しなければならないということで、メーカーや百貨店にとって大変重大な問題なのですね。う~んお勉強になりました。

まだまだ紹介しきれないほどの事例が載っているのですが、お客様からの苦情の中には大変重要な問題が示唆されていることが多いこと、病的なクレーマーは除外するとして、普通に苦情を言って下さる善良なお客様はとてもありがたい存在だということがわかりました。苦情の申し出は全苦情の4%にも満たないとのことで、通常は不満があっても黙って来店しなくなるか、同じブランドを扱っていれば他店で購入してしまう人が多いのです。
だからといって、ガンガン苦情を言おうとは思いませんがw

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年11月 | トップページ | 2007年1月 »